大手芸能プロダクション社長の遺言「僕が死んだ後にやってほしい事」

司法書士として生きる

2022 年 9 月下旬、沖縄メディア「沖縄タイムス」に、【「橋本さんの思いつなぐ」沖縄こども未来プロジェクトなど3団体へ 寄付金の贈呈式】という、遺言書で沖縄の子供へ財産を寄付する活動「沖縄こども未来プロジェクト」の記事が上がりました。

福岡県中間市役所を定年退職し、好きだった沖縄に移住。しかし移住半年後にステージ 4 の子宮がんが見つかり 62 歳を迎える前日に息を引き取った、社会福祉士の橋本京子さん。

そんな橋本京子さんの遺言「経済的な理由で夢を諦めざるを得ない子供たちのために財産を使ってほしい。それが自分の生きた証しになる」に基づく寄付金贈呈式が、2022 年 9 月 22 日に沖縄タイムス社で行われたのです。

「橋本さんの思いつなぐ」沖縄こども未来プロジェクトなど3団体へ 寄付金の贈呈式 | 沖縄タイムス+プラス
 故・橋本京子さんの遺言に基づく、沖縄こども未来プロジェクト(代表・武富和彦沖縄タイムス社社長)など3団体への寄付金贈呈式が22日、沖縄タイムス社であった。橋本さんの遺産から各団体の代表に1500万円ずつ計4500万円の目録が手渡された。

私、日高は、故人の生前の意思を実現する「遺言執行者」という仕事を、司法書士としてよくやっています。故人から直接依頼されることも、家庭裁判所から嘱託によって就任することもあります。

今回は、私がやった遺言執行者としての仕事から感じたことを記載します。

依頼者からの「僕が死んだ後にやって欲しいこと」

以前、大手芸能プロダクション社長から以下のような内容の依頼がありました。

「自分の財産を東京の残された家族、そして家族以外でもお世話になった方へお渡ししたい」という依頼です。退職して余生を暖かい沖縄で過ごしたいとうい思いで生活していたものの、ガンに侵され余命1ヶ月。

依頼者であった大手芸能プロダクション社長の場合、家族を県外に残して一人来沖したものの、一人で余生を楽しみたいとのことに対して生前後悔があった模様。また一方で、沖縄で大変多くの方にお世話になったそうです。その感謝の気持ちを、遺言書の「付言事項」欄にて詳細に記載してお伝えしたい、という依頼内容も含まれていました。

「遺言書の作成」

正確に財産を承継するためには、時間をかけて十分に話し合い、依頼者本人の意思をしっかりと確認することが必要です。私は、どのように財産を承継させるのかを詳細に検討しました。

遺言書の多くは、書面を正確に公証してくれる法務局所管の役所「公証人役場(公証センター)」で作成されます。原稿自体は依頼を受けた司法書士が作成しますが、正式な遺言書は「公証人役場」が公的に作成するわけです。

依頼者が亡くなられたあとに遺言書通りの遺言を実現するのが、「公証人役場」の担当者となるわけです。

「依頼者の死亡」

遺言書の依頼者が死亡したら、その遺言書に基づいて財産の承継手続きを行います。例えば、預金や不動産などの継承ですが、不動産の場合は、売却して売却代金を承継することもあります。

依頼者が介護施設に入っていた場合は、費用の清算や遺品の整理、携帯電話の解約など
を行ったりもします。依頼内容は、人それぞれ多種多様。最近は、葬儀の主催者から、永代供養に至るまでの手続きをしました。
ここまでのことは、事務的な業務報告です。

さて、ここからが僕がこの任務を通じて感じたことです。

死を数日前にして、社長との会話

社長は、死を目の前にして僕にこう言いました。

(社長)「僕はね、大手芸能事務所の社長をやり関連会社も多く持っているんだよ。これまで多くの女優やモデルと付き合ってきたよ。いろんな女性がいた。けどね、痩せたガリガリの女優より、ジャージに半ズボンで大根足の沖縄のおばさんが今は好きなのよ。」

(日高)「綺麗な女性はもう飽きたということですかね。笑」

(社長)「そうなのよ。女優やモデルさんが僕のどこを好いているかわかるか?」「沖縄の彼女は、僕のことを何も知らないが、僕は彼女と一緒にいる時がとても楽チンだ。彼女は僕に沖縄料理を作ってくれる。チャンプルーがとても美味しい。彼女にとても感謝しているよ。病気になった後も変わらずに僕を看病してくれる。」

(日高)「先日お会いしてお話しさせていただきました。普通の女性で職業も普通の事務員ですね。社長が資産家であることは知らない様子で、単に県外からの移住者で居酒屋で知り合ったからお付き合いしているということ彼女から聞いてます」

(社長)「僕は、沖縄の彼女と付き合った期間は短い、確か2年くらいだろう。けど、僕の財産をあげたい。家族との間にトラブルが無いように、彼女に多くの財産を渡してくれ!家族以外に財産をあげることがあなたへの依頼だ」

(日高)「確かに、社長のいう通り、財産を家族以外の他人へ譲ることはできます。極端なことをすると遺留分という制度や家族の感情としても好ましくないです」

(社長)「だからあなたにお願いするんだよ。田中(仮名)さんからあなたならなんとかやってくれるということで紹介してもらったんだ。田中さんの案件もあなたがやったんでしょ。是非、お願いする」

(日高)「わかりました。」

※この時社長は、話すこともままならない健康状態でした。その2週間後に他界しました。

日高雑感

人が死ぬ時に考えることは、見栄や財産より、自分に優しく接してくれる人だと思う。「楽チン」こそパートナーに求める最高の価値なのかもしれない。

一方、家族がいるのにも関わらず沖縄の女性に多額の財産を承継させることなど無理矢理ですが、トラブルの間に挟まる苦労を報酬として盛り込んで依頼者と契約しました。

なお、家族とはすごいトラブルのもとで遺言執行の任務を果たすに至ったことの内容について様々な理由で言葉にすることはできません。

最後に

様々な経験のもとでこのような仕事をすることについて、私が感じることをいくつか。

まず、「明日死ぬかもよ!」という思いで生きた方がいいと思うのです。

依頼者のような大社長でも死期を迎えます。これまで多くの方の死を知らされました。「元気ですか?」で有名なあのアントニオ猪木さんですら他界しました。

そして、言えるのは財産を持って天国にいくことはできません。
あのアップルの創業者スティーブ・ジョブズは、「墓場で一番の金持ちになることは私には重要ではない。夜眠るとき、我々は素晴らしいことをしたと言えること、それが重要だ。」との名言を残したようです。

最後に、そのあなたの築いた財産で少しでも誰かの役に立てるならそれが人が生きた価値だと思います。もし、あなたの財産の行方をあなた自身が決めなければその財産で誰かが不幸になることもあります。

しっかりと意志を残すべきです。

人生は、必ず終わります。そこまでに何をするべきか。

レスター司法書士法人
代表司法書士 日高憲一

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